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2007年01月21日

●第28話(時計旋盤作業について) 

アンティーク腕時計で天府に耐震装置(インカブロック・ダイヤショック)等が付いていない物は、落とした時に天真が曲がったり折れたりします。部品のストックがメーカーに無い場合、当店では別作して修理します。巻真の場合は許容誤差もあまく、硬度も厳しくはないのですが、天真の場合はそういう訳にはいきません。

極小の場合、長さ2mm前後になり、天真のホゾの直径は0.06mm位になります(人間の髪の毛の太さは、個人差はありますが大体0.08mm位です)。許容誤差は千分の5mm以内におさえなくてはなりません。焼き入れ済みのスチールを再度、業務用のバーナーで焼き入れし、油の中に入れてある程度の温度まで高めて焼き戻しをします。その事によって、天真の硬度の適切なビッカース硬度600になってから、旋盤にて切削して天真を作ります。私は超硬バイトは一切使いません。切れ味はいいのですが切削面が非常に汚いため、自作のスチールバイトを何度も焼き入れして、とても切れ味の良くなったバイトで作業しています。スチールバイトで製作すると、切削面が非常に美しくなります。

最重要点のホゾの研磨はとても神経を使います。最初に荒仕上げの磨きをした後、スイスベルジョン製の人工サファイヤで最後の研磨仕上げをします。寸法はマイクロメーター・アキシャルマイクロメーターで測ります。私は1本の天真を作るのに、最低でも2時間はかかります。時計の本を読んでいると、10分で天真を作る熟練の技術者がいる自慢話が出ますが、寸法・硬度を考えれば、とても出来る相談ではありません。

天真の最適硬度:ビッカース600を切削する技術は大変なものです。柔らかい焼き入れスチールを切削するのは簡単ですが、硬度が無い為、少しのショックで曲がる危険性があるのです。懐中時計は耐震装置が付いていない物が多いため、天真入れ替え作業はよくあります。読者の方で、もしそのような故障があれば、当店へ御相談ください。