●第244話(婦人用IWCマークXII)
読者の方から、IWC・マーク12レディス自動巻腕時計のOHの依頼を受けました。
紳士用のマーク12はジャガールクルト製のCal.884(36石)が 搭載されていましたが、婦人用のマーク12もジャガールクルト製の Cal.964(31石)が搭載されていました。
このムーブメント(Cal.964)は、マスター・レディ用に開発された カレンダー付き自動巻ムーブメントで、28800振動です。 1995年に市場に登場し、自動巻ながら、厚さは3.95mmに抑えられ パーツ総数は226個ありました。
ジャガールクルトのムーブメントはIWCだけではなく、オーディマ・ピゲ、ブレゲ等のスイス高級腕時計にも採用されている非常に精度の出る高級ムーブメントです。 いつもジャガールクルトのムーブメントのOHをする時に、思い起こすことがあります。ロレックスのムーブメントは、戦国武将で例えるなら、合理性と完全主義の織田信長を彷彿とさせます。一方、ジャガールクルトのムーブメントは、繊細で知的な感じがして、明智光秀を思い浮かべる細やかな神経の様な感じがしています。 (質実剛健な社風のIWCには地味で堅実で忍耐強い徳川家康がマッチするような気がします。)
機械腕時計の隆盛と共に、ジャガールクルトの新製品の開発ラッシュも、勢いがあり、最近では、『マスター・エイトデイズ』、『マスター・パーペチュアル』、 『マスター・ジオグラフィーク』、『マスター・コンプレッサー・メモボックス』等を売り出しております。
マーク12(紳士用)のCal.884のOHをする時に、いつも懸念を抱く箇所が一カ所だけあります。(姉妹ムーブメントのハイグレードのCal.889もそうですが)緩急針は微細調整スクリューが取り付けられており、日差の調整等は、すこぶる簡単明瞭に出来るのですが、ヒゲ受けとヒゲ棒の隙間の点がどうしても、気になる所があります。
ヒゲ棒がヒゲ受けに狭く平行に立っていれば問題は無いのですが、 ヒゲ棒の根本が、ヒゲ受けよりも少し離れた所に、取り付け(カシメ)てある為に、 先端にいくにしたがって隙間が少なくなるように傾むかせているのです。
この様な状態ですと、ヒゲゼンマイが片アタリの時はあまり影響は受けないのですが、高級精度調整のヒゲ両アタリにした場合、文字板上と文字板下とでは、日差に多少、差が出るのです。その理由は、ヒゲ受けとヒゲ棒間の遊びの差が、平行で無い為に文字板上下で差が大きくなり、文字板上の状態では、文字板下の状態よりもアソビが大きくなり若干『遅れ』の兆候が出てしまうからです。(天真のホゾの上下のアガキの存在の為、どうしても起きてしまいます。)
高級腕時計を生産し続けてきたジャガールクルト社が、 何故にヒゲ棒とヒゲ受けを平行にせずに、敢えて斜めに傾けているのか? 今だに私にとっては大きな謎です。
Cal.884もCal.964もヒゲ棒が、太めにしてある為に、段差をつけて平行にする様に無理して曲げると根元から折れてしまう為に、小生は紳士用はヒゲ棒が傾いていても仕方なく極少ない両アタリにして調整し、婦人用は片アタリにしたりして調整する場合もあります。精度調整も当然、文字板上を最重要視して調整します。