« 第239話(トランジスタ時計) | | 第241話(44GSのOH) »
« 第239話(トランジスタ時計) | | 第241話(44GSのOH) »
2007年01月21日

●第240話(エボーシュ・メーカーについて)

私が、この業界に入った35年前には、ETA社のムーブメントを搭載した、腕時計の修理依頼が来るとハッキリ言ってあまり嬉しくはありませんでした。当時、ムーブメントを製造するエボーシュ社の中には、 ETA社よりも個人的には、好きな機械を作る会社が他にもたくさんあったからでした。

『ア・シ-ルド社』は当時、ユリス・ナルダン、チュードル、ラドーにも採用される程、優れた自動巻機械を作成していましたし、『フォンテンメロン社』の婦人用手巻きムーブメント(Cal.60)は、国産のS社がおそらく手本にしたのではないか?と思われる程、酷似しておりました。ノモスや限定版フレデリック・コンスタント、エポスに採用されている、『プゾー社』の名機 Cal.7001は、当時からスタンダードな、手巻き機械として有名で、通算生産個数が100万個を越える程の、ヒットした手巻き機械でした。

ETA社に吸収された、『ユニタス社』も、懐中時計のムーブメントCal.6498を長年製造してきて最近ではエポス社や、エベラール社等に採用され、リバイバルなヒット・ムーブメントになっております。スウォッチグループに所属しているETA社は、『ア・シ-ルド社』、『フォンテンメロン社』、『プゾー社』、『ユニタス社』というスイスを代表するムーブメントメーカーを吸収した以外にもクロノグラフ・メーカーとして著名だった『ヴィーナス社』や『バルジュー社』も傘下に収め、その優れた技術力を全て吸収して、ETA社の現在は35年前とは比較出来ない程の技術力の優れた、巨大エボーシュメーカーに成長しました。

現在、日本で販売されているスイス時計の、おそらく8割以上はETA社のムーブメントを搭載した腕時計だと思います。他に、ETAに吸収されたエボーシュメーカーは『ヌーベル・ファブリック社』、『デルビ社』、『シェザール社』、『レニュー・ダロニュー社』、『フルリエ社』『ベニュス・ベルノワーズ社』、『フェルサ社』、『ア・ミシェル社』、等があります。

スウォッチグループの強みは、世界最大規模のムーブメントメーカーETA社を 抱えているのみならず、ヒゲゼンマイ専用メーカー、『ニヴァロックス社』を、 過去に買収して、子会社にしている事だと思います。

世界の冠たるR社や、J社も、P社も 『ニヴァロックス社』のヒゲゼンマイを採用している為に、 言葉は悪いかもしれませんが、急所を掴まされている、と言っても 過言では無いと思います。

そういう意味から言って、世界の中で100%完璧なマニュファクチュールは日本のセイコー社、一社だと断言しても、間違いないでしょう。セイコー社はヒゲゼンマイも自作している希有なメーカーで、セイコーインスツルメンツの系列会社SIIマイクロパーツ社でヒゲゼンマイを生産しています。1950年に開発されたヒゲゼンマイ専用の弾性の非常に高い特殊合金(SPRON100)は炭素・ニッケル・クローム・モリブデン・鉄の合金から成っています。)

ですから、国産の日本を代表するセイコー社には、誰彼を遠慮する事なく自前で、全てが製造出来る技術を持ったメーカーですので、 もっともっと魅力のある機械式腕時計を開発していって欲しいと願っております。