« 第237話(アンティーク・ジラールペルゴの修理について) | | 第239話(トランジスタ時計) »
« 第237話(アンティーク・ジラールペルゴの修理について) | | 第239話(トランジスタ時計) »
2007年01月21日

●第238話(時計洗浄について)

腕時計のオーバーホールをする場合、必ず店・修理工房が設置しなければならない 道具があります。時計旋盤・タイムグラファー・タガネなども勿論そうなのですが、大切なのに 超音波洗浄機がOHする場合の必須の機器になります。

昭和30年代の頃は、時計職人は全て刷毛(ハケ)による手洗いを円形ガラス瓶の中で第一洗浄をし、仕上げに綺麗な新品の揮発油が入った第二円形ガラス瓶で、洗浄したものです。昭和40年代に入りますと、独逸ヴェルヴォ社が腕時計専用の回転式洗浄機を開発し、売り出しました。当然、私の父親も時計店を経営していた職人でしたので、直ぐさまこの回転式洗浄機を購入して、OH作業をしておりました。(但し、全自動式でないために、手動で次の槽に移転しなければならない煩わしさがあり作業効率が悪かった記憶があります)

しばらくすると、同じヴェルヴォ社が、超音波を第二回転洗浄槽に取り入れた、洗浄能力の高い機器を発売し、資金的に余裕のある時計店はほとんどこれを買われたものでした。弊店では、セイコー系の子会社から発売されてた6個の洗浄槽からなる、富士オートクリーナー超音波洗浄機を使用しております。(これが、またまたしっかり設計されていたのでしょう、長寿命で吃驚しています)

20数年前までは、今では限定的にしか使用されない、発癌性物質トリクレンという洗浄液を使っていましたが今では、健康上の安全面・及び自然環境への配慮から、 トリクレン洗浄液は一切使用していません。(昔は掛け時計・置き時計のOHの場合、洗い桶の中にトリクレンを入れて大きな刷毛で洗浄していましたから今から思うとゾーとしてしまいます。)

弊店ではトリクレンもかわりに、第一回転洗浄槽の中には、揮発油とベルジョン潤滑液(5493-1)とを混ぜ第二回転洗浄槽の中には、揮発油とベルジョン潤滑液(5493-2)とを混ぜて 使用しています。第三、四、五回転洗浄槽の中には、上質の揮発油を使用しています。

最新のヴェルヴォ社超音波洗浄機は、洗浄槽が三槽からなり、今では、88万円もの高額機器になっております。最後の槽はどの洗浄機器も乾燥槽になっており、設定温度が約55度前後になっているのが普通です。(以前の機器では乾燥槽の温度調節ができない為にプラスチック素材のパーツが溶解するという羽目に陥ったりしてガックリした経験が何度かありました。)

どの洗浄機もバスケットの中に、分解したパーツを地板・歯車・受石・穴石・バネ等に分けて入れ回転洗浄をします。 そして、バスケットに残っている洗浄液を回転して振り切り、次の洗浄槽へ移り、 最後に熱風乾燥させる槽に入れて、洗浄作業が終わります。

注意すべき点は、非常に小さい押さえバネや、各種のバネ類はバスケットの中に 入れた場合、バスケットの網目から外れ出て、紛失してしまう可能性があるため、 受石・押さえ・テンションバネ等はガラス瓶の中に入れて、 手洗い洗浄しかしない方がよい場合もあります。

超音波洗浄機の場合は、熱線による温風乾燥ですが、ハケによる手洗いの場合は、セルベット布による吸い取り乾燥や、ブロアーによる風振り切り乾燥及び自然乾燥などがあります。(エピラム液の場合は自然乾燥が一番だと思います。)他には、ツゲのおがくず(ソーダスト)の中で転がし混ぜて乾燥する方法もありますが今ではこの方法は廃れてしまいました。