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2007年01月21日

●第235話(ネジについて)

30年~40年以上も使用され続けてきた、腕時計のオーバーホールをする時には、簡単な作業でも細心の注意を、払わざるを得ない時があります。特に、極薄の自動巻腕時計の時のネジを締める時に、起こる場合が多いです。(極薄の自動巻腕時計・手巻腕時計の場合はネジが薄く・小さく・軽くなるためです。)

それは、丸穴ネジや側留めネジ、文字板留めネジ、等を緩める時や、締める時に、ネジ頭が折れてしまい、オネジ部分がメネジ部分に、埋め込まれてしまう場合がある時です。折れ込んだ、オネジ部分を抜き取る作業は、簡単な様で大変な目に遭います。何回もオーバーホールをしてきた時計ですと過去の於いてネジを何回も緩めたり締めたりしているためにネジ部が金属疲労で劣化していてちょっとの力具合で折れてしまうのです。(一つのネジを抜き取るのに2時間以上の必要な時も往々にしてあります。)

分解途中で折れ込んだ場合は、マシですが、洗浄後、組立注油作業中に折れ込んだ場合は非常にやっかいな手のかかる作業になります。ピンセットの先端で回しながらオネジ部分が抜ければたやすい事なのですが、オネジ部分がメネジ部分の上にでていない場合は、ピンセットで回しながら抜き取る訳にもいかず、メネジ部分に油を差したり、折れ込んだ部分に熱風を与えたりして、抜き取る作業をしますが、それでも、オネジが抜き取れない場合、ポンスで、叩きだす以外、方法がありません。

無理矢理ポンスで叩き出した場合には、メネジ部分のネジ溝が壊れる為に、タップでメネジ部分のネジ溝を作って、前回よりも、やや口径の大きいオネジを使って、ネジ留めします。その作業によって、その部分がどうしても汚れてしまう為に、また分解して洗浄注油をしなおすハメに陥り、大変な時間の消費を食らってしまいます。

スイス時計の日本サービスセンターやセイコー・サービスセンターが30~40年前の修理依頼があっても断る原因の一つに部品が無い為に、やむを得ず断る場合もあるでしょうが、オーバーホール作業中に、ネジ折れが頻繁に起こりうる可能性がある為に、作業段取りに手間がかかり、断っているのが実状ではないのかな?と思っています。

今まで、何十種類もの、腕時計のオーバーホールをしてきましたが、唯一安心して、ネジを緩めたり、締めたり出来る時計メーカーは私にとってはロレックス社のみでした。特に、C社の丸穴ネジ・角穴ネジは折れやすく、いつも「折れるのではないか?」とビクビクしながら、作業をしたものでした。

新品購入後、最初のオーバーホールが一般的に一番大切である、と言われているのは、「ネジ部」「カナ部」に起因する事なのです。鋼鉄製のオネジと、地板に使用されている真鍮合金製のメネジ部を、締める時や緩める時に、必ず、ネジ部どうしの大きな摩擦により、真鍮の微細なクズ粉、鋼鉄部の微細なクズ粉が生じて、それらが、時計の心臓部や歯車のカナ、穴石等に付着したりして、大きな故障の原因になる場合があるのです。(勿論、カナ部と歯車の歯との噛み合いによってもクズ粉は生じます。)

よって、新品購入時からの最初のオーバーホールの時は、3年~4年を目安にして、オーバーホールを依頼された方が良いと思います。最初のオーバーホールは超音波洗浄にかける前に必ず十分な刷毛洗いが必要なのはこのクズ粉をきれいに取る為なのです。