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2007年01月21日

●第234話(ドイツのマイスター制度)

日本には、職人の技量を客観的に測る制度に、労働省認定の三級、二級、一級技能士試験があります。昔から緻密な工作機械、飛行機、車、等を生産してきたドイツには、職人の身分を示すのに伝統的な『マイスター制度』が現存しています。800年前のドイツのニュルンベルグのギルド(同業者の組合組織)、ツンフト(手工業者の組合組織)から生じたものと言われております。

その頃の、大工、左官、石工、家具、仕立、時計職人になろう!と思った青年は徒弟として、親方職人(マイスター)に弟子入りし、数年に渡り見習い修行をし、職人として認められる様に努力したものです。その制度は、今日のドイツにも継承され、多くの腕利き親方職人を育てあげています。(世界有数の工業国家として世界に認められた事実には、こういう社会の底辺から職人がしっかり屋台骨を支えているからなのでしょう。)

ドイツで国家資格の『マイスター試験』を取るには、高卒後、最短で6年が必要と言われています。高校卒業後、各地方の職業専門学校に入学し、実務と知識を習得し、まず第一段階として職人試験に合格しなければなりません。職人試験に合格後、さらに上のマイスタ-を取得する為には、親方職人の元で、実務経験をさらに積み上げる方法と、放浪職人(ヴァルツ呼ばれている)になって各地方・各国家を放浪して、三年と一日間、実務の経験・勉強をしながら、旅をしつづけるという、苦難に満ちた過酷な運命・試練に自らを委ねなければならない、という方法があります。

自らを奮い立たせる気力・体力・精神力を持続させ、成就した青年のみが、国家試験の『マイスター試験』を受ける事が出来、合格後、栄えあるマイスターと名乗る事が出来るのです。現在、この過酷な放浪職人をしている青年が150名に上るという事をNHK衛星テレビで見て、彼らの職人に対する熱情を推し量る事が出来、とても感動を覚えました。(1880年代が全盛期で独逸各地で帽子をかぶり杖を持った放浪職人が一杯見受けられたそうです。その彼らをドイツ国民は尊敬し温かい眼差しで応援していたそうで、その気持ちは今でも脈々とドイツ国民に受けつながられているそうです。)

放浪職人の青年達はヨーロッパ中の7、8カ国を徒歩で、歩き回り、多い人になると3年間で、8000kmを歩き回るらしいです。服装も黒ずくめで、ベストには8個のボタンがありその意味は『一日に8時間労働する』という意味だという事です。また上服(ブレザー)には、6個のボタンがあり、その意味は『一週間に6日間労働する』という意味だという事です。放浪職人は、実務記録帳(ヴァンダーブーツと言われています)携帯し、三年間の放浪中、どこの親方職人(マイスター)の元で、仕事をしてきたか、あるいは、親方職人からその仕事ぶりの評価を実務記録帳に書いてもらうという義務があるのです。三年間の放浪後、その実績が認められ、マイスター試験の受験資格が与えられ、合格すれば『マイスター』の認定書が国家から授けられるという仕組みが、現在のドイツでも歴然と残っている事に感銘を受けました。

私の若い頃にも、腕の立つ若い時計職人が、2,3年毎に著名な時計親方職人のいる時計店を渡り歩いている姿を多く見かけました。彼らは、親方時計職人から色んな、技を修得し、さらに上を求めてまた、違う親方時計職人の店で働くという、研鑽を積み上げていったものです。そういう私も、福島県の菅波錦平先生、大津の行方二郎先生、大阪の加藤日出男先生、神戸市の小原精三先生の元で教えを請い、修行をしてきたのがこのテレビ番組の放浪職人を見て、懐かしく思い出されました。