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2007年01月21日

●第229話(子供用機械式腕時計)

10月に、東京のA市からO様が当店に修理依頼の為にご来店頂きました。その時計は、修理実績にも載っていますが、約30年程前に、シチズン時計が、生産した子供向け用の『リズムタイム』というネーミングの手巻きの腕時計でした。(Oさんが子供の頃お父様に買っていただいたという思い出の時計でした。)

当時、シチズン社は子供向け用に、『キンダータイム』と『リズムタイム』を並行して販売しておりました。当時の価格で\2,500前後という値段でお子様が、ちょっと背伸びをすれば小遣いで買えるという良心的な低い価格で設定してありました。クラブツースレバー・脱進機を搭載した7~17石の機械で、シチズン名機の『ホーマー』をベースとしていた為に、価格が低く抑えられていたにも、かかわらず、精度は当時で+-40秒前後に調整されて市場に出回っておりました。

当時のキンダータイムやリズムタイムと競合する子供用廉価腕時計には、セイコー社が提供している『トモニー』、アメリカのタイメックス社の『ピンレバーウォッチ』スイス時計メーカーの『ロスコフウォッチ』等がありました。(ジョルジュ・フレデリック・ロスコフが100年以上も前に作り出した時計)タイメックスのピンレバーウォッチもスイスのロスコフウォッチも日差2~3分の誤差が出るのが当たり前の許容精度でした。

それに比べ、国産の、トモニーやリズムタイム等は、かなり精度が絞れるメカ式を内蔵していました。O様からは、二回目のご来店の上での修理依頼でしたので、この廉価版シチズン腕時計をなんとかクロノメーター規格の精度にしてあげたいと思っていましたのでヒマな休みの日に時間を作って、ヒゲゼンマイ等を精密調整 (ヒゲゼンマイ外端曲線の修正、ヒゲ受け・ヒゲ棒のアタリ微調整、平ヒゲの偏心する収縮運動の目一杯の修正、テンワと平行になるようにヒゲ縦ぶれ修正、アンクル爪の第二停止量の修正)等を行いました所、日差+5前後に精度が絞れる事が出来ました。

時計技術界の巨匠、H・イェンドリッキー氏が、下記のように言っておられます。『どんな廉価な腕時計でもクラブ・ツースレバー脱進機を搭載していれば、手抜きせずにヒゲ調整等すれば高級腕時計の精度を容易に与える事が出来る』と、 言っておられる事を、まさに体験した修理作業でした。