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2007年01月21日

●第223話(ピンセットについて)

毎日時計修理作業をする前に、必ずする事がたくさんあります。細かいチリ・ホコリ等は精密機械の腕時計修理には禁物ですので、作業机を必ず綺麗に掃除します。
倍率の違うキズミを小生は3個常に使用していますので、キズミの汚れ等をキレイに取り除きます。

そしてドライバーの先端の、両側のコーナーが笑っていないか、10本のドライバー全てをチェックします(ネジ頭の大きさ太さによって10本のドライバーを使い分けます)。ドライバ-の両端が欠けたり曲がっていたりしたドライバーを使ってネジを緩めたり締めたりしますとネジをキズつける事になるからです。最近、両面スケルトンや青色焼入れネジを使っている時計修理が多い為に、昔よりもより以上の神経を使わざるをえません(スケルトンの場合、超音波洗浄機にかけないで刷毛手洗いのみの洗浄になる時もあります)。

私の作業机の上には、常時8本のピンセットが置いてあります。毎朝作業をする前に、ピンセットの先端を二重キズミで見て、先端が上手く噛み合っているか、曲がったりはしていないか等を見て、万が一先端がずれていた場合や曲がっていた時はアルカンサス砥石で完全に修正します。修理作業中に来客があり中断したりした時は、往々にして細かい部品を挟みそこねてバネ等を飛ばす失敗があるのです(微細なバネ等を飛ばしたりしますと、見つけるのに下手したら30 分以上もかかったりして大変な目にあいます。愚妻は器用ではないのですが、飛ばした部品を見つけるのが上手く、いつもその時は助けてもらっています)。

小生の愛用ピンセットは、ヒゲゼンマイ用ピンセット2本、針修正用ピンセット1本、組立用ピンセット3本、バネ専用ピンセット1本、ROLEX天輪掴み専用ピンセット(4コーナーを面取りした傷が付かない工夫した物)1本、このピンセットはマイクロステラを使って秒単位の精度調整をする時に天輪を掴む為のピンセットです。

何故こんなに3本もの組立用ピンセットが必要かと言えば、受け石バネ用、各歯車やアンクル組み立て用、香箱や香箱真を持つ為に、そして紳士用、婦人用と『強さ』、『細さ』、『先端の形』、が違いがあるピンセットを使い分けて使用する必要があるからです。その8本の内4本は、小生が30年以上使用に耐えてきた強者(つわもの)のピンセットです。

ピンセットを持った時の感覚が、30年間使用している為に、指の感覚と同一の様な慣れ親しんだ繊細なピンセットで、私の手の一部とも言える工具です。小生は若いとき、軽い近眼だった為にその事が今では幸いし、この年になっても近業作業が無理なくおこなえます。若い頃、正視眼の人は40代になりますと自然と老眼になり時計修理等の近業作業が大変辛くなるものです。

私の父は小生の年頃になったときには近用眼鏡をかけてその上にキズミを付けていましたから、修理作業は大変だったろうなーと思い出しては回想しています。