« 第197話(先生のタイプについて) | | 第199話(シチズン・ホーマーについて) »
« 第197話(先生のタイプについて) | | 第199話(シチズン・ホーマーについて) »
2007年01月21日

●第198話(歯の摩耗)

埼玉県の方から先月、セイコー・ゴールドフェザー(Cal.60 25石 5振動)手巻き腕時計の修理を頼まれました。この時計は1960年製で第二精工舎が売り出したもので、その当時としては国産最薄型でした(1962年にシチズン・ダイヤモンドフレイク厚さ2,75mmが出るまで日本一の薄さの時計でした)。価格もそれなりに高く(金メッキ型で2万円前後した高級機種の記憶があります)、厚さは2,95mmというものでした。

薄型化を成功しるためにセイコー独特の輪列機構が設計されましたが、やはり少し無理があったのでしょうか、分針にガタが生じやすい欠点がありました。しかしながら調速機構はしっかりした作りでかなりの精度はでる時計でした。

その時計は巻真も折れていましたし、長年の仕様で歯車の歯・カナが全体的に摩耗してへたっていましたのでいろんな調整に大変手間がかかりました。特に日の裏車の歯が摩耗してきますと時間合わせがとてもしにくくなります。よく防水時計でも横着に使用してますと筒カナ・日の裏車・笠車が錆びて付着し、無理して針合わせをすると歯がバリバリと欠ける故障が起きます。歯車の歯も何十年と使用しますと強いゼンマイのトルクでカナを回しますので歯が減ってきたりします(人間の歯も40年、50年と生きてきますと歯が小さくなり隙間が生じたり、抜け落ちたりするのと全く同じです)。

そう言えば、手巻きクロノグラフのストップウォッチ機構を頻繁に使用しますと、秒クロノグラフ車・中間クロノグラフ車の三角状の歯がスタートボタンを押すたびに、噛み合うためにぶつかり合い、先端の三角状の歯が摩耗して減ってきてしまいます。そうすると、歯と歯がきちんと噛み合わなくて飛んで歯が噛み合うために秒針の運針が流れるように進まなくなり、ぎこちない運針になります。

中間クロノグラフレバー調整ピンでその噛み合いを直すのですが、へたって浅くなった分、深く噛み合いさせるようにすると4番クロノグラフ車と中間クロノグラフ車が深く噛み合い止まってしまうのです。なかなかその調整は勘がいるものなのです。メカ式腕時計は大切に使えば人間の寿命とよく似た運命を辿るものなのかも知れません。