« 第22話(世界の時計産業について) | | 第24話(米国の時計メーカーについて) »
« 第22話(世界の時計産業について) | | 第24話(米国の時計メーカーについて) »
2007年01月21日

●第23話(幻の名機・セイコー製市販天文台クロノメーターについて)

メーカー同士の時計の精度を競う天文台主催のコンクールが以前ありました。しかしクロノメーターの規格に入っても、その時計は市販されませんでした。なぜなら、そのコンクールの期間中だけ精度を維持すればよく、何年もの耐久性・人が腕にはめたときの衝撃性等が重用視されていなかったからです。ごくまれに、天文台クロノメーターの認定を受けた腕時計を市販したメーカーがありました。

それは、有名なマニュファクチャルのジラール・ペルゴーと米国のウォルサム懐中時計です。昭和初期に発売されたウォルサム天文台クロノメーター懐中時計は当時の価格で1000円で、今の値打ちでいうと、1戸建ての家が買えるぐらいのとても高額なものでした。

セイコー舎が1969年にスイスのニューシャテル天文台コンクールに100個の手巻き式腕時計を検定に提出し、その中で規格にパスした73個の天文台クロノメーター手巻き式腕時計を18金ケースに入れて当時の価格で18万円で市販しました。今の値打ちでいうと80万円ぐらいだと思います(ウォルサムと比較して非常に安いと思います)。その73個は発売と同時に購入者が殺到し、瞬時に完売されたと伝え聞いてます。今でも日本全国で73個のとても希少価値のある、セイコー天文台クロノメーター手巻き式腕時計を持っておられる人がいることは、業界人としてとても羨ましいです。このメールマガジンをご覧になっている方でその時計をお持ちの方は、 是非私に修理の依頼をしていただきたいと熱望しています。

なぜそんなに私が大げさに(1つも大げさではないのですが)この時計のことを褒めちぎるのかと疑問に思われるかもしれませんが、その時計は機械式腕時計では想像を絶する精度を保有しているからです。ちなみに日差は0.175秒で、並の水晶腕時計よりも精度がいいのです。高級機械時計の精度の目安となる最大のポイントの最大姿勢平均偏差が、なんと0.776秒なのです(以前、日本に存在した日本クロノメーター検定協会の優秀級クロノメーター検定基準は日差が-3~+8秒で、最大姿勢平均偏差はなんと12.0秒なのです。現在売られているロレックス・ゼニス・IWCもこれぐらいの精度基準だと思います)。

日本の時計ファンなら多分ご存じかもしれませんが、私も以前ジラール・ペルゴーの10振動のハイビートの自動巻腕時計を分解掃除しましたが、その時計もセイコー天文台クロノメーター手巻き式腕時計と何ら遜色のない精度を保有していました。私が30年間修理してきて最高の精度を発揮した時計として、とても鮮明に覚えています。日差はほとんど0.1秒に近かったと記憶しています。後日、その話は読者の方にお話ししたいと思います。