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2007年01月21日

●第186話(道具について)

1/5の晩、NHKで大変興味のある番組が放送されていました。伝統工芸品を製作する職人さん達の使う道具が入手出来ない状態が、最近続いているという内容でした。道具を作る材料が入手出来ない上、それを作る職人さんも減ってきていると言うことです。

石川県では漆器の輪島塗が特に有名ですが、蒔絵を書く特殊な筆がここ10数年1本も生産されていないそうです。その筆の原料となる毛(くまネズミ)は琵琶湖湖岸の葦が茂っている所にしか生息しないそうですが、護岸工事のために日本ではもうほとんど捕れなくなってしまったのです。そしてこの筆を作ることの出来る職人さんは京都に住んでいる一人の職人さんしかもう作れないという、お寒い状態なのです。蒔絵師にとって命綱のこの筆が入手できないと言うことは、職業の道をたたれる事を意味する大問題なのです。一流の繊維会社に人工繊維で筆を作って欲しいと長年試作品を作ってもらっても、なかなかイイ物が作れないと言う事でした(天然の素材がいかに優れているか如実に物語る話です)。

これによく似た事が時計修理業界にもあります。最近、時計小型精密旋盤をもう一台購入したく、日本全国の時計材料店に問い合わせましたが、どこも在庫を持っておらず、今大いに悩んでいる所です。時計旋盤も長年使用してきますと、センターに若干誤差(千分の五mm)が出るのです。天真の先端のホゾは 0.08~0.05mm位の細さになる為、センターのほんの僅かな狂いが大いなる影響を及ぼすのです。
国産のアロー、ジェム等はとうの昔に生産をうち切っているのは知っていましたが、今ではボーレー、ベルジョンしか作っていないとの事です。

それも備品(チャック等)を揃えたらベルジョンで360万円を越す価格で大いに今悩んでいる所です(私は約30年前にジェムの時計旋盤を65,000円で買った記憶がありますが何という高騰でしょうか)。

時計工具はそれぞれの時計職人がいろんな工夫をして自分が使いやすいように自作して使用しますが旋盤・タガネ・超音波洗浄機・タイムグラファー等の修理道具はどうしても買わなければ入手出来得ないのです。時計職人(そのころは時計店店主がほとんど自店で修理していました)が日本で2万人位いた40年ほど前なら需要が沢山あり、生産してもそれなりに採算がとれ売れたでしょうが、今では世界中でも3万人位しか時計技術職人はいないということです。おそらく日本でも現役でバリバリ活躍している腕のいい時計技術者は200人もいないでしょう。よってなかなか時計修理道具が入手出来なくなってきているのです。