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2007年01月21日

●第185話(トゥールビヨン)

ETA社に対抗するムーブメントメーカー『ロンダ社』の子会社として知られている『プログレス社』が、廉価なトゥールビヨンのプロトタイプを発表したのは2000年バーゼルフェアにおいてでした。約3000スイスフラン(日本円で約300,000円)という想像だにしない価格のムーブメントを売り出したので、スイス時計業界が喧々囂々の騒ぎになったのは容易に想像出来ます。

この『プログレス社』のトゥールビヨンはキャリバーが4種類(6361.101、6361.151、6561.101、6561.151)用意され、手巻き・自動巻・デイト表示のものがありました。このキャリバーを搭載したスイス時計メーカーは、クロノスイス、フレデリック・コンスタント、アイクポッド、アラン・シルベスタイン等でした。

それまでトゥールビヨンと言えば、日本小売価格は1,000万~2,000万円(その小売価格設定自体がもともと可笑しいのですが)もする超高額腕時計で、スイス時計の高級イメージを代表するコンプリケーションでした。それが、300万円前後(それでも高値ですが)で日本で売り出されたので、超高級イメージが壊れてしまうのではないか、と私は懸念していました。また、先行のスイス高級時計メーカーがどのような対抗手段を取るのか見物でした。

しばらくすると案の定、『プログレス社』の経営が行き詰まりだし、いろんな噂が飛び交ったため信用不安を起こし、破綻した事を最近知りました。日本でも「出る杭は打つ」という諺がありますが、『プログレス社』にもいろんな方面からの圧力があったものと私は推測しています。おそらく、資金的な面やエボーシュに関しての供給問題等、当事者にとっては頭が痛い事が次から次とあった事でしょう。

トゥールビヨンをスイス時計の儲け柱のドル箱に育てていきたいと思っていた高級ブランドメーカーが、『プログレス社』に対して直接・間接的に、いろんな圧力をかけたのではないかと思っています。

昨年末のスイス時計フェアが各有名百貨店にて開催されこの未曾有の不景気にもかかわらず超高額トゥールビヨンが各店で何本も売れたと言うことを輸入代理店から聞きました。そういう需要が日本にもあるという事をセイコー社のトップの人によく知って貰いたいものです。セイコーの技術力をもってすればコンピューター設計を駆使し最新のNCN旋盤加工で、超高精度のパーツの生産が出来うるものと思います。
よって昔ほどトゥールビヨンの組立・調整は難しいことはないと思います(熟練組立技術者がいなくても充分、対応出来るはずです)。

是非、セイコーのトゥールビヨンを一日も早く開発して欲しいと願う今日この頃です(東谷宗郎先生のセイコー・トゥールビヨン・プロトタイプがもう完成しているのですから・・・、スプリング・ドライブよりどれ程魅力があることか・・・)。