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2007年01月21日

●第174話(ETA7750・クロノの修理)

機械式クロノグラフの人気のせいか、最近クロノグラフの修理依頼が多く、ETA(バルジュー)7750の修理依頼が頻繁に舞い込むようになりました。

先日も7750のオーバーホールをしました(5日に1回はしているかなー)。洗浄後、組立、手巻きの状態で完璧に作動し、歩度・精度も調整し、クロノグラフ部分を組立、針等も取付し、ケージングして「やれやれ・・・修理完了」と安堵して、腕にはめて実測の段階になりました。

一日目、秒クロノグラフ車を一日中作動してみると精度はまあまあでした(日差+5秒ほど)。二日目、秒クロノグラフ車を止めて精度を測ってみたら、 2~3分ですぐに止まってしまうのです。クロノグラフ部分を組み立てないで、手巻きの状態ではすごく調子が良かったのに、何故止まってしまうのか原因がなかなか掴めません。

面倒でも、また機械をバラして、歯車のホゾのアガキ等を全て確認し、いろいろ原因になるような所を探してみても、悪いところが見つからず困っていました。

秒クロノグラフ車を動かしたら止まり、秒クロノグラフ車を動かさなければ機械が動く、という故障の事は考えられても、逆の場合は少ないのです。よって、秒クロノグラフ車に伝える車に何か原因があるのではないかと思い、それを取り出して40倍の顕微鏡でカナ・歯車をよく見てみました。

そうすると、カナ歯の谷間にキズミでは見つけられにくい、非常に細かい金クズ(0.1mm以下)が付いていたのです。7750は秒クロノグラフ車を動かす時、伝え車が若干斜めになる為に、4番車の歯と伝え車のカナ車とのアガキがほんの少し大きくなり、そのゴミの影響を受けなかったのです。しかし、秒クロノグラフ車を止めると伝え車がほぼ垂直になり、4番車の歯と伝え車のカナ車とのアガキが適量になるため、その金クズが引っかかって止まるという原因でした。

オーバーホールしても原因不明の停止になる場合は、おうおうにして再度分解掃除すれば直るという事があります。この場合も全くそれで、一度の超音波洗浄では微細な金クズが取れなかったのです。時計のムーブはいかに繊細な精密機械であるか、読者の方にわかって頂けましたでしょうか。

7750は長い間使われている汎用クロノの機械ですが、最近の7750のムーブは精度が素晴らしく、いとも簡単に高精度が出ます(テンプの片重り、ヒゲゼンマイの内端・外端調整が完璧に成されているためでしょう)。7750を採用しているブライトリング社はクロノメーター規格を取って高価格で販売していますが、同じ7750を採用しているオリス、エポスのクロノグラフはクロノメーター規格を取っていないにも関わらず、同等以上の精度を保持している事を、販売したお客様から好評のお言葉を頂いてわかっております。7750は敢えてクロノメーター規格を取る必要がないほどすぐれた精度を持っているムーブだと再認識した次第です。

ETA社の技術力も大したものになったなぁーとつくづく感心している今日この頃です。
30~40年ほど前のETA社とは隔世の感があります(何せ世界一の時計ムーブメント会社なのですからイイ機械を作っているのは当然と言えば当然ですよね)。最近では7750の機械も好きになってしまった私です。