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2007年01月21日

●第173話(セイコー・スプリング・ドライブについて)

最近、新機軸のムーブを搭載した腕時計が多数出てきました。
セイコークレドールに搭載されたスプリング・ドライブ、オメガに搭載されたコーアクシャル脱進機、ユリスナルダンのフリーク脱進機です。

今回はスプリング・ドライブについてお話してみたいと思います。

この機械が世の中に登場したきっかけは、「動力源をゼンマイにしてクォーツ並の精度を保持したメカ式腕時計を開発したい」というセイコー技術陣の熱い思いから来たのではないでしょうか。この仕組みは、香箱に収納されたゼンマイを動力源として、2番車、3番車、4番車、5番車・・・という輪列歯車を動かし、それによって運針させる点では、天府機械式と全く同じと言えます。

ただ一つ違うことは、天府機械式はガンギ車・アンクル・天府によって脱進・調速して精度を出します。しかしこのスプリング・ドライブのメカニズムは、7番車にあたるローターが1秒間に6回転する事により生じた電気エネルギーで水晶振動子を発振させ、IC集積回路で制御し、調速するのです。

ローターが高速で回転するために、ゼンマイのパワーリザーブが2日間しか持たないのは、一般の機械式と同じだと思います(これがせめて7日間のパワーリザーブがあれば魅力的なのでしょうが)。

このメカニズムを開発するのに、20年という長い年月がかかったそうですが、私にはそれほど魅力のあるメカニズムとは到底思えません。機械式の魅力は、天府が調速機能を果たす姿が美しいから、時計ファンを魅了し続けたのです。このクレドールは、裏スケルトンになっていますが、写真で見た限り何ら機械の面白さが伝わってこないのです。価格も100万円以上もするので、おそらくこの時計は人気が出なくあまり売れないのではないかなと、私は想像しています。

それよりも、東谷宗郎先生がセイコーインスツルメンツ時代にプロトタイプを開発した新設計の「セイコー・ツゥールビヨン」を一般向けに商品化した方が、どれほどインパクトがあったか計りしれません。このスプリング・ドライブ方式はSSケースに入れて5万円を切らなければ、おそらく普及しないものと私は思っております。