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2007年01月21日

●第169話(歌『大きな古時計』)

NHK番組「みんなの歌」で、アメリカ発祥の歌『大きな古時計』が人気を呼んでいます。シングルCDも30万枚を突破し、3週連続でチャート1位になったそうです。数年前、同じNHK番組である芸能人が『大きな古時計』を作曲したアメリカの家を訪問していたのを見ました。その家には、歌のモデルになったもう動かなくなった大きな重鎮式ホールクロックが置いてありました。

この歌を聴いた人は、おそらく幼い時に育った古里の実家の掛時計や、育ててくれたご両親や、祖父母様を思い出すのではないでしょうか。古く遠い昔、実家の大黒柱に掛かっていた1週間巻きのボンボン掛け時計や、1ヶ月巻きのセイコー掛け時計を思い出し、小さい頃の思い出が走馬燈のように記憶の中から蘇ってくるのにちがいありません。日本の文部省唱歌『ふるさと』を聴くような、同じような懐かしい温かい古里の思い出に浸れるから大ヒットしたのでしょう。

大黒柱に掛かっていたゼンマイ仕掛けの掛時計は、何十年もの間、その家の喜びや悲しみをじぃーっと見つめてきたのです。その掛け時計は、その家の歴史を時とともに一日も休まず刻んできたからに他ありません。

私の小さい頃、裕福な友達の家に遊びに行くと、アップライトピアノの上にオメガの字の形(Ω)をした置き時計がほとんど置いてありました(その横にはきまって角川の夏目漱石全集がよく置いてあったものです。若いとき夏目漱石を愛読したのはその影響でしょう。)そのウエストミンスターチャイム付きの置き時計は、クラブツースレバー脱進機を搭載したエスケープメントが付いていました。

平姿勢に固定していた為に、クロックと言えども姿勢差の影響を受ける事なく、日差±3~5秒以内という高精度を維持していました(今でも現役で動いている家庭もあるかもしれません)。

ボンボン掛け時計は退却型脱進機の為、どんなに精度調整しても1日に30秒~1分程の誤差が出ました。よって、家人にとっては反面世話のかかる時計だった為に、余計に愛着が起きたものと思います。誤差は出ても定期的にOHすれば、50年以上の寿命がある時計でした(何かしら蒸気機関車D51を彷彿とさせますね。遅いけれども煙を吐いて一生懸命走る愛らしい汽車、狂うけれどもチクタク音をさせながら動く、いとおしいゼンマイ掛時計と言うふうに)。

最近流行の電池からくり時計は、大変面白い仕組みですが、寿命はおそらく10年は持たないのではないでしょうか。その事を思うと機械式クロックは何と長寿命なのでしょうか。大切に使えば人間の一生と同じくらい長生きします。メカ式腕時計が復活した今、メカ式クロックも再生産したら、けっこう売れるのではないでしょうか?でも長いブランクでもう組立技術者はいないでしょうね。

日本にセイコークロック、リズム時計、明治時計、アイチ時計、東洋時計、手塚時計があったようにドイツにはキンツレ、ユンハンス、ウルゴス、カイザー、またイギリスにはウエストクロック(ビッグベン)という堅牢な機械を作るすばらしいクロックメーカーがありました。