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2007年01月21日

●第162話(くわばら くわばら)

映画ファンの方なら皆さんご存知の『スティング』という面白い洋画があります。ROLEXデイトナを愛用して人気に火をつけた、ポール・ニューマン、ロバート・レッドフォード主演の痛快詐欺師の話です。

日本でもこれと同じような詐欺師に遭った時計宝石店があります。一つは、東京銀座の…店の話です。

いかにも紳士然とした身なりのよい中年男性が、街の中で見知らぬ若い女性に声をかけました。「私にもあなたと同じ年頃の娘がいます。誕生日が今日なので思い切って何かいい品をプレゼントしようと思っているのですが、若い女性の好みが全くわからないので、仮の私の娘になってイイ指輪を選んでもらえませんか?」と頼みました。
親切な若い女性は気持ちよく快諾して、見知らぬ中年男性と有名時計宝石店へ入っていきました。

店に入って、その詐欺師は「娘に何かイイ指輪をプレゼントしたいので、お店にあるとっておきの良い品を見せて頂けませんか」と店員に言いました。そこで、その店主は自店にある選り抜きの指輪を何点か取り出し、その詐欺師に見せました。その詐欺師は、その店の自慢のダイヤモンド指輪(5カラット・Dカラー・VVS1クラス・時価数千万円)に心を惹かれたように見せかけ、「天然ダイヤは太陽光線で見ないと本当の美しさはわからないと聞いたので、店先の所へ持って行って見てもいいですか?」と訊ねました。店主は「もちろんいいですよ」と言いました。

そして詐欺師は5カラットの指輪を手にして店先に出て、一目散に逃げ去ったのです。店主はビックリして、店に残された娘さんに「お父さんはどこへ行かれたのですか!?」と聞きました。するとその若い女性は「全く見ず知らずの人で、街で声をかけられ、こうこうこういう訳で来たのです」と言ったのです。騙されたと気が付いた店主は110番通報して犯人を捜しましたが、結局その詐欺師は捕まりませんでした(警察の話では、「日本でも珍しい大粒の良質のダイヤなので、換金する時に必ず足がつく」と、店主に慰めていましたが、結局はそのダイヤは海外で処分されたのか、見つからなかったのです)。

もう一つは大阪の有名時計宝石店であった話です。

育ちが良さそうに見せかけたな中年詐欺師が、獲物の的にした時計宝石店を訪ね、「妻に何かイイプレゼントをしたいので、指輪か高級時計を見せて欲しい」と言いました。そしてその詐欺師は、云十万円相当の指輪を値切りもしないで現金で気持ちよく買って行きました。

しばらくして、また店に来店し、自分用の云十万円程の腕時計を、また現金で値引き交渉もしないで買いました(イイお客様だという印象を其の店に植え付けたのです)。
そこの店主はいい顧客になると思い、その詐欺師に「お名前と住所をお聞かせ願えませんか」と言いました。するとその詐欺師は「名前と住所を言うと、ダイレクトメールとか訪問販売とかが迷惑なので言わないのです。」と言って帰って行きました。

そうこうするうちに、その時計宝石店に電話がかかり、「覚えておられると思いますが、2~3週間前に指輪と腕時計を買った何某だが、今度定期が満期になったので、妻に大きなプレゼントをしたい。500~1000万クラスの指輪を家に持ってきて貰えないか」と言ったのです。

そこで店主は宝石商社から何10本と委託で1000万クラスの指輪を取り寄せ、家を訪問したのです(その訪ねた家は売り家で、数億円相当の豪邸でした。詐欺師は相棒の女性と結託して、「高価な家を買うのだから1週間位住まして欲しい。住んでみて良かったら買う」と不動産屋に言ってまんまと騙したのです。なかなか高額中古家が売れないご時世ですから、不動産屋は「これはうまく、まとまるかもしれない」と思い、その詐欺師カップルに申し出とうり、1週間の約束で住ませたのです。詐欺師はその家を借りる事に成功し、いかにも長年そこに住んでいるように家財道具を運び入れ、準備万端ととのってから、時計宝石店主を家に呼んだのです)。店主はその家構えを見てスッカリ安心し、すごいお金持ちだな、と思ったわけです。

早速応接間に入り、持って来た高額指輪を詐欺師に見せました。詐欺師曰く「うちの家内は恥ずかしがりやだから、ここに来るのがイヤと言っているので、の部屋にこの指輪を見せに行ってもいいか」と聞きました。店主は「どうぞどうぞ」と勧めました。そして詐欺師は総額何億円もの指輪を持って奥の部屋へ消えたのです。

しかし、10分待ち、20分待っても戻って来ないので、一抹の不安を覚えた店主は、奥へ様子を窺いに行きました。しかしもう、もぬけの殻でした。この見事な詐欺師も、まだ逮捕されていません。くわばら、くわばら。