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2007年01月21日

●第142話(サインのつらさ)

時計職人なら、ほとんどの方が分解掃除0H後に裏ブタに日付けと自分の名前のサインをします。この時計は自分が修理したのだという気概と誇りと自信をもってサインを書き入れます(私の場合、CMW T・Iと書きます)。しかしながら精一杯手抜きをしないで完璧に修理したにもかかわらず、サインする事に躊躇する場合が多々あるのです。

前回、あるいは前々回の修理者が未熟のために、地板・ネジ等にあっちこっち傷をつけている場合です。取れない傷の場合どうしようもありません。前回にひどくいじられた時計のOH後、自分の名前をサインしてお客様に渡し、次回修理の時に自店に戻って来ればいいのですが、他店に行った場合、あの人は大きな口をたたくくせにこの傷だらけの作業は何だと思われる可能性が無きにしも非ずという訳です。

よって、前回の修理が余りにもひどい作業をしている場合、私は日付けはキチンと入れますが、自分の名前を書き込むのはものすごく抵抗があるのです。やむを得ず書かない場合があります(自分だけにしか解らない記号にしたりします)。

先日もGSのOHの依頼を受けました。ムーブを見てビックリ仰天しました。緩急針をヤットコか何かでちぎっているのです。何でこんな作業をするのか想像すらできません(どういう理由でするのか聞きたいくらいです)。当然時間は全然合わない為にヒゲゼンマイを調節して何とか直しました。この場合もサインをするのはやむを得ず差し控えました。