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2007年01月21日

●第139話(クロノグラフの修理について)

最近、クロノグラフの修理依頼が大変増えました。この傾向はますます拡大していくようです(10年程前にはメカ式クロノは年間数本の修理依頼しかありませんでした)。スイス時計メーカーが、こぞってよく売れるクロノの新作を出すからでしょうか。
若い人を中心にクロノの人気が拍車をかけているのも大きな原因の一つに違い有りません(ROLEX・デイトナの爆発的人気の影響が一番でしょうか)。

一般の手巻きや自動巻きと違ってクロノの分解掃除は大変厄介で手間とコストがかかります(手巻きは部品総数が100個未満ですがクロノになると350個前後の多さになります。細かいバネが10個以上にもなります)。ユーザー方々の誤作動により壊れたものは余計に修理に時間がかかります。

各種の針もシッカリ歯車に取り付けていますので、簡単には剥がれません。元シチズンの野元輝義先生(CMW)は『エイ・ヤー』と気合を入れて剣抜き器で針を抜くと言っておられます(繊細な時計修理なのに剣道の試合のようですね)。

慎重の余りびくびくしながら作業をしますと、針じゅう傷だらけになってしまいます。
特に注意を要するのは、針についてある夜光蛍光塗料です。劣化や外部からの強い衝撃で目に見えない細かいヒビが入り、どんなに熟練技師でも、剣を抜く時にちょっとした衝撃で剥がれ落ちてしまう可能性が多大にあるのです(あるサービスセンターではクロノの分解掃除時に針を交換すると明記している所もあるくらいです)。
私も今まで30年間で何回も冷や汗をかきました。これは万が一、剥がれ落ちてもまったく不可抗力?なのです(腕の未熟さは別の問題ですが)。剣を抜く時は寒い時でも全身に冷や汗をかくのです。思い出しただけでも、ぞーとします。

また、使用中に針や、文字板の夜光蛍光塗料が剥がれ落ち、その細かい破片がカレンダー窓からムーブメント内に混入して歯車等に噛み込み、突然止まるという故障にも数多くあたりました。

クロノの所有者の方は、メンテナンスに3~4年に1回4万円以上のOH代金がかかるという認識の上に購入された方がいいと思います(後からこんなはずではなかったと後悔しないためにも)。それと、クロノは複雑ゆえに故障原因がいろいろ多様に多いという事も知っておいた方がイイでしょう。

どんなに注意深く使用しても、機械式クロノは定期的なメンテナンスは絶対欠かせません(特にスタート・リセットボタンのネジ・バネの錆。クロノは防水と言えども水には全く浸けないほうがイイのかもしれません)。

その点、クロノと違ってROLEX自動巻腕時計はホゾの保油装置に充分、油が注せますので、7年使用してても油が残っているケースに出会います。さすがだなーとつくづく感心します。ROLEXは一般のスイス時計(例えばOMEGA・IWC)よりも2倍以上の油がさせる穴石・受石構造になっています。