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2007年01月21日

●第132話(職人の手の速さ)

OHに所用する時間は腕時計の種類にもよりますが、時計職人の腕の器用さや、作業の几帳面さ、手抜きするかしないかで大きく異なります。段取りよく、スムーズに仕事を進める器用な時計職人にかかれば、難物修理も普通の腕前の職人よりも早く作業が完了するものです。

私の場合、1級時計技能士の父より手が早いとよく褒められましたが、休日に朝から夜まで修理しっぱなしで、手巻きなら3本、オートマで2本、クロノ及びROLEXなら1日1本のOHが限度です(難物に当たればたとえ手巻きであろうとも1個仕上げるのに2日~5日間以上かかるときもあります)。

最近買った時計雑誌に下記のような記事が載っていました。有名百貨店の時計売場の修理下請けをしている時計修理専門会社のことが書いていました。各百貨店時計売場からその修理専門会社に、年間45000本の修理依頼が舞い込むそうです。
すごい数ですね(電池交換、パッキング交換等の易しい作業は各時計売場で直ぐにするでしょうから、殆どがOHの依頼でしょう)。そこの修理スタッフは合計20名で(時計技能士1級が1名、2級が19名 平均年齢28)、45000本の修理をするそうです。その数字が如何に驚異的な事と言えば、260日間働くとして1日一人当たり9本弱修理しないと消化出来ない数なのです。殆どの修理がROLEXが多いと書いていましたが、1日8本ROLEXのOHをするなんて驚愕的な事なのです。どのような作業段取りをすれば可能なのか?一度、修理現場を見てみたいものです(おそらく見せては頂けないでしょうが)。

私のかっての弟子でI君は(近江時計学校卒・在学中に2級時計技能士資格を獲得)1日オートマを1個するのが限界でした(彼は私の影響を受けたせいで、丁寧に手抜きしないで作業にあたっていたからでしょうか。経営的には彼のような職人ばかりでしたら赤字に陥ってしまうでしょうが)。

尊敬するK先生の弟子で私の兄弟子にあたるO先輩(CMW)は腕が極めて良くて手が早い人でした。1日にOMEGA等のスイス高級腕時計のOHを何本かしておられました(OMEGAよりも精密・精巧であると言われるROLEXを1日8本以上するのはどうみても人間ワザとは思えないものです)。

かってOMEGA・バセロン・チソットの日本輸入代理店であったシイベル時計(株)のサービスセンターには多数の新進気鋭のCMWが在籍しており、最低でも1級時計技能士の資格を持っていないと肩身の狭い思いをしたと言うことを、以前聞きました。CMW資格者には特別手当が支給され、多くのCMWがスイス研修に行きました。その頃のシイベル時計(株)のサービスセンターは紛れもなく日本第1級(いや、世界第1級)の時計修理技術陣の集団だったでしょう。もう、こんな凄腕のサービスセンターは現在の日本には存在しないのではないでしょうか?寂しい気が致します。