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2007年01月21日

●第127話(高級スイス腕時計の価格について)

総合病院に設置されているCTスキャナーのような高額医療機器は、高いモノになると定価は数千万円もします。ある知人の医療機器納入業者から聞いたところによりますと、工場出荷価格は一般的に定価の2割~高くても3割だということらしいのです。病院等には半額で納品しても十分、利益は確保されているというのです(メーカーによっては千差万別でしょうが)。

一方、超高級時計の方はどうなのでしょうか?時計専門誌等を見ると、最近頓にスイス高級時計メーカーが競って複雑時計(トゥールビヨンなど)を売り出しています。
買う人がおられるから作るのでしょうが、高いモノになると定価は日本では1000万円はします。買う人を見つけて輸入代理店に現金で交渉して仕入れれば、六掛けから半額ぐらいには仕入れできるのでしょうか?輸入代理店が卸価格の40%利益を取るとして、日本には上代1000万円の品が300万円以下で日本に入ってくるのではないでしょうか?(断っておきますが、これはあくまで私の推量ですが)。スイス時計メーカーが30%利益を確保するとして、やっぱり高級スイス腕時計も本当の工場出荷原価は200万円位になってしまうのかも知れません。そう思うとなかなか超高級時計は一般庶民には手が出せなくて手の届かない商品ですね。

汎用クロノグラフムーブメントETA社7750を例に見てみましょう。このムーブは、ありとあらゆるスイス高級時計メーカーに採用されています。この機械を搭載している腕時計の小売価格はどうなっているのでしょうか?

・ブライトリング クロノマットMOP  460,000円

・タグホイヤー プロフェショナル  250,000円

・ボーム・メルシエ ケープランドSクロノ 320,000円

・パネライ ルミノールマリーナ 450,000円(7750-P1)

・オリスTT1・クロノ 175,000円

・IWCメカニカル・フリーガー・クロノ 545,000円

・OMEGAシーマスタークロノグラフ 430,000円

・ポルシェチタンクロノグラフ 425,000円

・Sinn モデル6000 480,000円(7750改良型)等々

仕上げ(クロノメーター規格を取得したり、地板にコート・ド・ジュネーブ模様を付けたり)が各メーカーとも違っているとは言え、機械が同じで余りにも価格にばらつきがあるのにビックリされたでしょうか?(それにしても名機のETA7750がリーズナブルな価格で仕入れ出来るので、スイスの他の時計メーカーが莫大な資金を投資してムーブを自社開発しないのがよくわかります)。

プログレス社のトゥールビヨン・ムーブは3000SFR(邦貨で24万円)と聞いております。このトゥールビヨン・ムーブを搭載したスイス時計メーカーは、クロノスイス・アイクポッド・シルベスタイン等でしたが、小売価格はどれも百数十万円以上もします。

リーズナブルな価格で人気沸騰のノモス(小売り価格十万円前後)に搭載されているETA社Cal、7001などは果たして幾らで買える物なのでしょうか?値段を聞いたらおそらくビックリするに違い有りません。

それにしてもETA社は良いムーブメントを低コストで製造できる生産能力に、他のスイス時計メーカーは太刀打ちできないのが現実でしょう。それ故に、ETA社ムーブのスイスでの寡占状態が生まれたものと思います。

『編集後記』
フランク・ミュラーと言えば、ブレゲ再来の天才的時計師として今日、高く評価されています。複雑時計(コンプリケーション)を得意として、新機能の腕時計を矢継ぎ早に世に問うてきました。私も田舎の一塊の時計師として、一度フランク・ミュラーの機械を見てみたいものとかねがね思ってまいりました。ケース・文字板・ムーブメントとあらゆるパーツを自社工房で製作すると聞き及んできました。

ごく最近、フランク・ミュラークロノグラフ(品番7000CC 定価88万円)のムーブを見る機会がありました。機械はETA社クロノグラフ7750系を採用しているではありませんか。ビックリしました(自動巻ローターの素材を比重の高いプラチナ950を使っていましたが)。如何にETA7750がクロノの汎用機械とは言え、OMEGA・ブライトリング・パネライ・IWC・タグホイヤーオリス・モーリスラクロア等数え切れない程に使用されていることを知るにつけ、余りにも個性が無いような気がして成りません(仕上げに差異があるとは言え、同じムーブを採用しているのに何故こんなに日本で価格差があるのでしょうか?)。