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2007年01月21日

●第110話(ロンジンのムーブメントについて)

ロンジンは1970年代までは自前の素晴らしい機械式の腕時計を作っておりました(その意味ではオメガ・IWCと同じです)。クォーツの出現により機械式時計の未来を暗黒と予想した時のロンジンの経営者達は、自社の機械式ムーブメントの製造機器を他社(レマニア社・ETA社)に全て売り払ってしまったのです(今から思えば何という愚挙に出たかと思わざるを得ません。現在の機械式が完全に復活し隆盛する事を読み誤ったのです)。

そしてスウォッチ・グループに入り、ETA社製キャリバーを搭載した水晶腕時計ばかりを売っておりました。世界中であれほど人気のあったロンジンも人気が薄れ、価格が市場で暴落し扱う時計店も減っていきました。

そのロンジンがかって『コンクェスト』に搭載した機械式の名機Cal、L990(28800振動・直径26mm・厚さ2,95mm)を蘇えらせることを聞き、嬉しく思っております。
ロンジンにはかって下記のような素晴らしいメカ式ムーブが存在しました。
・Cal、501 503
このムーブはADMIRALに搭載された機械で、回転錘式自動巻機構・丸形ムーブ11、5型・17石・19800振動です。安価で高精度の割には部品数が少なくて調整しやすい優れ物でした。直径25,6mm・厚さ5,2mm 動力持続時間45時間

・Cal、430 431 433
このムーブはかの有名なULTRA-CHRONに搭載された機械です。メカ式では想像を絶する精度を保有しておりました。丸形ムーブ11、5型・17石・36000振動のハイビートでした。直径25,6mm・厚さ4,3mm 動力持続時間42時間。ロンジンのムーブはコンパクトで有りながら高精度の象徴でした。ある一面ではセイコー舎躍進の影の功労者と言えるかも知れません。セイコー舎とロンジンは過去の於いて極めて親密な関係でした。

・Cal、470 472
このムーブは婦人用に開発された自動巻です。丸形ムーブで32石入り直径15,3mm・厚さ4,6mm  動力持続時間46時間現行のROLEX・Cal2135と比較しても何ら遜色のない優秀なムーブメントでした。

25年ほど前にはロンジンは日本でもの凄く人気があり、かなり売れておりました(生産が販売量に追いつかなかった程です)。

スイスフラン及び人件費等の関係か解りませんが、東京台東区浅草橋にY川時計工業と言う会社がロンジンの組立協力工場として活躍しておりました。私が28歳の頃、そこの社長から組み立て工場の責任者として入社してもらえないかという依頼がありましたが、若輩者で人を動かす人望も持っていないので鄭重にお断りした事が昨日のことのように思い出されます。

人生には大きな岐路が必ずあります。私にとって若いときにアメリカ・ベンラス社に行っていたら?Y川時計工業に行っていたら?どんな人生を歩んでいたか。想像もでき得ません。私は2回の大きなチャンスを掴み得ませんでした。でも厳しいですが小さいながらも一軒の店を経営している今に満足しております。私の父は人生には3回大きなチャンスがあると口癖のように申しておりました。その3回のチャンスをモノにした人が大成する人だと言っておりました。読者の皆様も平等に訪れる3回の大きなチャンスを掴み取って欲しいと思います。