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2007年01月21日

●第213話(NHKにて)

5月24日にNHK金沢支局の取材を受け、6月12日(木)、17時05分~17時30分NHK総合放送『みまっしワイドかがのと5055』で、お宝拝見「時計職人が大切にしている時計」という番組に私が出演しました。

私が大切にしてきた時計は別に高額品でもなく、24才の時にCMW試験に合格した試験教材「19SEIKO懐中時計(Cal.9119A 15石」と「シチズン自動巻腕時計(Cal.6001 21石)」が紹介されました。CMW試験の苦労話や、CMW試験が日本に導入された経緯、CMW試験の内容等が詳しくその番組で述べられました。石川県のみの放映でしたが、NHKの人の話によると、反響がかなりあったそうです。
放送時間はわずか15分少々の番組でしたが、取材時間は3時間強にのぼるもので、終わった時にはヤレヤレと思ったものでした。

後日、NHK金沢支局のディレクターNさんから電話があり、評判が良かったので「お宝拝見スペシャル番組」を北陸三県(石川県・富山県・福井県)に放送するので、私ども夫婦にNHKスタジオに出演して頂きたいとの依頼が舞い込みました。(NHKに出演するのは2回目になります。随分、昔の話ですが、昭和 35年4月にNHK名物アナウンサー高橋圭三さんの司会で人気を博した『私の秘密』にも私は13才の時に出演しました。)

やっと一段落着いてホッとしていたのもつかの間、7月16(水)に金沢NHKスタジオに出向いて二時間余りの録画収録をし、7月25(金)19時30分~19時55分のゴールデンタイムに放送されました。

放送の内容は、お宝に込められた誓い、時計職人としての小生の拘り、時計修理にかける思い入れ、時計職人の後継者の育成、技術の継承、等をお話しました。
このスペシャル番組も評判が良かったらしく、7月27日(日)午前8時~8時25分に再放送されました。

さすがに視聴率が高いのか、NHKテレビの反響は凄いもので、2、3日店の電話が鳴りっぱなしでした。その中で特に、心に残った修理依頼品をお伝えします。

・金沢市の80才を越えた恰幅のある、ご年輩のI氏から修理依頼を受けたのは、その方の父親の形見のゼニス社製の懐中時計でした。おそらく、大正時代の頃のものと推察しています。
(当時は非常に高額品で古い家が一軒ほど買えたほどのものでした。)

・富山県のM様ご依頼の時計は、1965年製のセイコーダイバーウォッチで、その方の父親が魚釣りに出掛ける度に腕につけられた時計で、中の機械がアッチコッチ錆びていましたが是非なおして欲しいという事で修理依頼を受けました。

・金沢市のM様ご依頼のオメガ自動巻腕時計は、どこの時計屋に持っていっても修理を断られ、 諦めて20年間放置してあった時計で、若い時に無理をして散財して買った時計で是非生き返らせて欲しいとの強い要望があり、修理を受けました。これも錆びていました。

・金沢市のM様ご依頼の時計は、シチズンスーパーデラックス手巻き腕時計とウォルサム手巻き腕時計と父親の形見のロンジン懐中時計の3個を直して欲しいという事で持って来られました。

・小松市の若い娘さんM様のご依頼の腕時計は、母親が愛用していたセイコーブレスレット手巻き腕時計で、30年が過ぎているにもかかわらず新品の様な状態を保っているキレイな時計でした。

・松任市の80過ぎのご年輩のK様ご依頼の腕時計は、今となっては懐かしいスイス製ロイヤルプリンス自動巻腕時計で、現役の頃いつも腕にはめていた時計で、非常に愛着があるので是非直して欲しいと頼まれ修理を受けました。

・一番感動した時計は、加賀市からご来店頂いた小綺麗なご婦人のO様からの依頼の時計でした。その方の時計はレディ・セイコー手巻き腕時計で、若い頃にご主人からプレゼントされた時計で、大事に使っておられたそうですが、ご主人が亡くなられて、その後止まってしまいそのまま放置してあったそうですが、テレビを見て、是非この時計を生き返らせて欲しいとの強い熱望があり、修理を受けました。

43年前の古い時計にもかかわらず、オリジナルのケース・メーカー保証書が大切に残してあり、そのご婦人がいかに、その時計を大切に思いを込めて使ってこられたかは、一目瞭然でした。亡くなられたご主人を心からいとおしみ愛されていたのが手に取るように解りました。
 
・松任市の80過ぎのご婦人の依頼の腕時計は今は亡きご主人さんが、長年愛用してきた時計でした。 セイコー・クロノスという、45年前の手巻き腕時計で、コハゼの歯が欠けていて、ゼンマイが巻けない状態で、どこへ持っていっても修理を断られた時計でした。ご主人さんの生きた証として、息子さん達にこの腕時計を残しておきたくなり、なんとか動く様にして欲しいとの必死の願いがあり、普通なら断るのですが、修理依頼をお受けしました。

時計という道具は、人それぞれに何かしらの記念的な思いが籠もった品であるとつくづく痛感しました。NHK金沢支局のアナウンサーWさん(教養があって非常に感じのいい青年)が言っておられた様に、時計の価値は、その時計自体の値打ちよりも、その時計を使ってこられた人の思いや、愛着が大きなウェイトを占めるものであると、この番組を出て改めて知らされました。

私はこれからも価値のある腕時計を修理するのは当然ですが、お金では買える事の出来ない人それぞれの熱い思いの籠もった腕時計も出来うる限り修理依頼をお受けしようと思いました。