« 第218話(時計店の業務の変換) | | 第220話(女性用電池腕時計の登場) »
« 第218話(時計店の業務の変換) | | 第220話(女性用電池腕時計の登場) »
2007年01月21日

●第219話(61グランド・セイコーについて)

精工舎が過去においてグランドセイコーを何種類か生産して来た中で、手巻きのGSの名機はCal.45である事に異論を挟む人はいないと思います。

この45キャリバーは、第二精工舎が1968年に生産を開始したものです。再三、小生がこの『時計の小話』で45キャリバーを褒めちぎってきた為に、このGSのアンティーク市場での値上がりが甚だしいという読者の方からのメールを頂いております(その点に関して、これから45キャリバーを入手しょうと思っておられるセイコーファンの方にお詫びいたします)。

自動巻のGSの名機と言えば、諏訪精工舎が同じく1968年に開発・発売したCal.6145A(日付付き)、6146A(デイデイト付き)でしょう。このムーブメントはムーブ直径が24.0mm、厚さ5.6mm、振動数36,000のハイビートで手巻機構付きでした。

この時計のSEIKO技術講習会に後年参加した時、SEIKOの技術者から『ガンギ車とアンクルは、洗いバケを使わずに新鮮な揮発油のみで濯いで下さい。洗浄後は布で拭かずに自然乾燥するように』と言われ、そして『絶対超音波洗浄はしないように』とのアドバイスを受けました。おそらく当時では珍しいエピラム液処理がしてあったのでしょう。また、香箱と香箱フタが完全に固定して密閉してあるので、絶対分解しないようにとも言われておりました。

実際香箱フタには「DO NOT OPEN」と黒色印字されておりました。それにも拘わらず、未熟な技術者が無理矢理フタを開けてキズだらけにしている修理に時たまあたります。このGSの精度は、日差-3~+6秒以内に精度調整されていました。

その年の12月に発売された、グランドセイコースペシャル(Cal.6155、6156)は、クロノメーターの検定規格を遙かに凌駕する精度を維持していました。日差は-3~+3秒という高精度を維持しておりました。

Cal.61系の最高峰が、1969年6月に発売されたCal.6185、6186でしょう。そのグランドセイコーは文字板にV.F.A(Very Fine Adjustedの略)と刻印されていました。おそらくこのグランドセイコーVFAは、スイス天文台コンクールで優秀な成績を収めた中山氏、小池氏、野村氏等の方々が精度調整されたものだと思います。
この時計の日差はSEIKO機械式腕時計の社内制度等級4A、という最高度の優れ物でした。日差-2~+2という精度で、実際の携帯精度は一ヶ月に誤差1分以内のものでした。

セイコーの長いメカ式腕時計の歴史の中で、1968年、1969年は金字塔を打ち立てた記念すべき年でした(世界最初の市販クォーツ腕時計 クォーツアストロンの販売も1969年でした)。

SEIKO社は幾多の機械時計を生産してきましたが、精度に関して完成度の最高の機械は、手巻きは『Cal.45』、自動巻は『Cal.61』だったと私は確信しております。