●埼玉県のO様
磯崎様
メールを頂きながら、御送りするのが遅くなり申し訳ありませんでした。
先日、見積もりを伺った時計を御送り致します。
8年前にスイスのベルンの時計店で買い求めたもので、一度日本のスウォッチに点検を出したきり、電池交換のみしていました。今回、オーバーホールと出来ればベルトの替えを御願いしたいと思います。同じような革製のものであれば、純正である必要はありませんので。
日本の気候と、汗かきの私の体質が災いしたのかベルトが湿ってしまい傷んでいます。
実は、今年の1月にスイス、ドイツとテレビ番組のロケでひと月ほど毎日つけておりましたが(時計の取材は2週間で後はハンガリーにおりました。)、乾燥した現地の気候では問題なかったのですが、日本に帰り皮バンドが傷み始めました。
番組とはBSジャパンの特番のことで、私はプラン作成から構成、ロケをやり、編集段階で、総合演出のHディレクターが編集権を持ちました。
私は磯崎さんに、私たちのスタッフが取材依頼をしているとは知りませんでした。スタッフのYが、お願いしていたというのは、ネットではじめて知りました。全く知らずに、時計関連の検索をしていた時に、御社のホームページを拝見していました。
レギュラー番組は、時計好きなHディレクターの采配のもとに出来た番組で、私は、時計には全くの門外漢でしたので、欧州の文化という意味合いでの仕事と思って取り組みました。特番はその両方の合体というのが理想でしたが、結果はどちらのテイストも全う出来ず、個人的には無念が残っています。
番組の出来は、いざ知らず、機械式時計に関する素晴らしい職人さんたち、技術者に会えたということは、とても光栄で、あり難い事だと思っています。
磯崎さんのように、真摯に時計をみつめ続けていらっしゃる方を知る事もできました。ただ、私は一介の貧しいディレクターですので、国家元首や国王に会う事は出来たとしても、財力は最下層の人間です。取材した時計を買いたいをすら考えません。
しかしセレブと言われる人に、ジャーナリストはいないと思っておりますので、ロシアの石油成金が闊歩するジュネーブの高級時計店とは、今後のご縁はなさそうです。
そんなわけで、仕事とあれば、何でも調べてどこでも伺いますが、高級腕時計を番組で扱うのは、これで最後になると思います。せっかくですので、自分が持っている一番良い時計のメンテナンスを身の丈に合わないかもしれないのですが、一流の方に御願いしたいと思いました。
ジャッケ・ドローのオートマタのことを、ブログに御書きになっていたので、現地で頂いてきた人形が描いた絵を同封致しました。博物館の方が、何枚か下さったのが、少し残っておりましたので。
(※↑長方形の升以下、全てオートマタのドローイングによるものです。)
この博物館の方も、非常に味のある面白いおじさんで、番組でご紹介できないのが勿体ないくらいでした。どこに行きましても、皆さん、本当に時計を愛しているのがわかりました。
ジャイロトゥールビヨンの開発者は、とても繊細な仕事をしているとは思えないほど、愉快でユニークな風貌のお兄さんでしたし、クラウスさん( ※IWC時計開発・最高責任者クルト・クラウス氏)は社内の階段を勢いよくかけ上がられて、驚きました。
時間の制約(予算の無い民法の宿命です)で、そうしたエッセンスが活かせず、個人的には不満の多い番組になりましたが、少しでも御楽しみいただけたなら幸いです。
私の誕生日が、リンドバーグが大西洋を横断した日でして、その時につけていたのがロンジンだった~という理由でロンジンを選びました。
リンドバーグ夫妻は、戦前の日本に小さな飛行機で新婚旅行にも来ています。
その当時、不時着に近い形で現在の北方領土にたどり着き、大歓待されました。今回、ロンジンは扱えませんでしたが、本来の私の企画は、そうしたエピソードを交えて、時とは何ものなのか、時計にまつわるロマンのある話をしたいと思ったりしています。機会がいつになるのかは、分かりませんが。
では、期限はありませんので、よろしくお願いいたします。O