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2007年01月22日

●第300話(最終回 メカ式腕時計の今後)

それまでの腕時計の概念を大きくうち破るセイコー・クォーツアストロンが、1969年に登場して以来、機械腕時計は、斜陽の一途を辿ってきました。 1980年後半までには、数多くのスイス時計メーカーは、 クォーツクラッシュにより、市場から淘汰され、消え去って逝く運命になりました。機械式腕時計の運命は、クォーツの出現により、風前の灯火まで追い込まれていったのです。

1990年前後になると、機械式腕時計の良さや、温かみが、一部の時計愛好家に再評価され、時計店の店頭にも、少しづつ飾られる様になってきました。 今日では、弊店の販売シェアは、全体の80%近くにまで伸び、逆にクォーツが売れなくなってきています。 このような状況を10数年前には、誰が想像出来たでしょう。

高級時計、中級時計は、メカ式腕時計が大多数を占め、 クォーツと言えば低価格品のみが売れていくという、現状です。高価格クォーツ(例えば、グランドセイコー・クォーツ等)は、これからますます苦戦していき、クォーツと言えば近い将来、低価格のソーラ電波腕時計に占められてしまうのではないか? と予感しています。メカ式腕時計が現在、ユーザーの方の圧倒的な支持を受けているのは、事実でしょうが、 これとていつまでも続く人気だと錯覚して、安穏としていれば、大きな落とし穴にはまると思います。

クォーツは、故障しにくく、オーバーホールの期間も7年~10年近く持つのですが、メカ式はそういう訳にもいかず、必ず3、4年後にオーバーホールの時期が到来します。OH後のその時に、新品時と同等の機能と精度が回復していればいいのですが、 もし、アフターケアがうまくいっておらず、ユーザーの方に『日本の時計修理技術は、こんなものか』と失望させてしまったら、 折角メカ式腕時計へ、回帰してくれたお客様が、再度離れていってしまい、クォーツを再評価して、メカ式がまたもや、市場から淘汰されてしまう、 という懸念が多分にあります。

ユーザーの方のメカ式腕時計への熱い支持を今後もとり続けていく為には、完璧な修理技術を習得した、時計職人の養成が急務の必須の条件だと思います。現在、販売したメカ式腕時計を自店で修理する店は、ほとんど無い状態なので、時計店経営者が、輸入元サービスセンターのみに頼らず、自店で修理技術者を育てていく 心構えが、必要だと思います。全ての時計店が、自店で時計修理をするには限界があると、思われますので 輸入元サービスセンターも、ロレックス社の様に日本全国に、くまなくサービスセンターを設置して、迅速で完璧な修理体制網を構築しないといけないと 思います。

メカ式腕時計が今後もユーザーの方に支持され、普及してゆく大きな要素の一つに、 時計店、輸入元の経営者が時計修理体制をいかにするか?にかかっていると言っても 過言では無いでしょう。

<執筆後記> 平成12年6月中旬に『時計の小話』第一話を書いて以来、丸五年で丁度300話で 完結致しました。この5年間に多くの方々の温かい励ましのメールのお陰で、やっとゴールに到着しました。ここに謹んで、読者の方々の皆様に御礼の言葉を申し上げたいと思います。

『本当に、五年間、ご愛読ありがとうございました。』

時計の小話を書く事により、日本各地から、多くの方々から、修理依頼を受け、 いろんな時計メーカーの腕時計のムーブメントを触れる事が出来ました。 この事も、大きな時計職人の喜びでもありました。

このメールマガジンを読んで下さった多くの方々の中に、かつてセイコーにこの人あり、と言われてこられました、東谷宗郎先生、小牧昭二郎先生、依田和博先生からも、 応援のメールを頂戴し、光栄に思っております。また、CMW試験の同期の遠藤勉氏からはアメリカから電話を頂いた事も、嬉しい出来事でした。

この時計の小話を読んで下さった読者の皆様に、時計を購入する時のアドバイスの 一端になったとしたら、これほど、嬉しい事はありません。これからも『時計の小話』を続けて欲しいというメールを沢山頂いています。 身に余る光栄と思っております。嬉しい反面、また大変なプレッシャーがかかるのも事実ではございます。想を新たにして、しばらく休憩後『続・時計の小話』を不定期に発行する予定でおります。 また引き続き読んでいただきましたら有り難く思っております。