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2007年01月21日

●第31話(フランスの天才的時計師について)

『ピエール・ル・ロワ』
フランスでの著名な時計師は、ピエール・ル・ロワでしょう。彼は1748年にマリンクロノメーターに使用されているデテント脱進機を発明しました。前回お話ししましたハリソンのマリンクロノメーターは、機構がとても複雑で高価であった為、ピエール・ル・ロワのマリンクロノメーターに1770年頃、取って代わりました。また、温度補正の為に誤差を出来るだけ少なくする切テンプも発明しています。

『アブラハム・ブルゲ』
かの有名なアブラハム・ブルゲは、1800年に重力誤差を受けにくいトゥールビヨン脱進機、1820年に腕時計の巻き上げヒゲゼンマイを発明しました。現在の高級腕時計(ロレックス・IWC等)には巻き上げヒゲが今でも使われており、高精度の歩度が出る象徴でもあります。ブルゲブランドの腕時計も復活し、高級腕時計分野に置いて名声を博しております。

『ヒリップス』
彼は1861年に巻き上げヒゲゼンマイの終末曲線の理論を完成しました。その彼の業績をたたえて、終末曲線をヒリップス曲線と呼ぶようになりました。彼の理論通りの曲線を採用することにより、巻き上げヒゲゼンマイを搭載した腕時計の歩度の精度が飛躍的に良くなりました。

『近代における他の天才的時計師(フランス以外)』
・ロスコフ
1868年にピンレバー脱進機を発明して、低価格の懐中時計を発売しました。この機構は、水晶発振式のクロックやエレクトロニックのトランジスタクロックが出現するまで何十年もの間、置き時計・目覚まし時計市場に採用された息の長いものでした。
代表的な物はセイコーコロナ目覚まし時計等で、中高年の方は懐かしいのではないでしょうか。またスイスのメーカーもこの機構を採用して安物の腕時計を生産し、日本に販売のなぐり込みをかけましたが、日差が2~3分ほどの誤差が出るため、几帳面な日本人の性格には合わず、あまり売れなかったものです。

セイコー・シチズンもスイスのピンレバー腕時計に対抗して、7石入りのクラブツースレバー脱進機の腕時計(セイコートモニー・シチズンキンダータイム)を発売し、市場に問いましたが、こちらの方が精度(日差30秒~50秒)が良かった為、かなり売れた記憶があります。その為にスイスのピンレバーはあっという間に駆逐されました。

・チャールズ・エドワード・ギオーム
時計業界でノーベル賞を授与した人がただ一人います。その人がギオームです。
1898年にインバー金属(温度が変化しても伸縮しない合金)、1913年にエリンバー金属(温度が変化しても弾性が変わらない合金)を発明して、ノーベル物理学賞を受賞しました。この発明が天府等に採用され、温度変化に影響されにくい調速機が出来たのです。

・リーフラーとショート
最高の精度とされている地球の自転の精度(1日に千分の一秒の誤差)を上回る時計は、各国の天文台の標準時計となっている原子時計です。原子時計の前は、ドイツ人のリーフラーが発明したリーフラー標準時計が天文台の標準時計でした。それをイギリスのショートが自由振り子式標準時計に改良しました。

何百年にもわたる、優れた数人の天才的時計師の努力や発明のお陰で、現在の高精度の機械式腕時計が存在するのです。クォーツ腕時計は、まだ歴史が約30年と浅く、機械式腕時計と比較して歴史の重さは比較になりません。最近の機械式腕時計の復興を見るにあたり、一時計職人として非常に嬉しく思います。