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2007年01月22日

●第296話(OMEGA シーマスター・カレンダーの修理)

群馬県T様から、修理依頼を受けた、OMEGA シーマスター・カレンダーCal.355 17石(13550626) は、お父様の形見の大切な時計で長い間引き出しの中に眠っていたそうです。いまでは非常に希少価値があるシーマスター・カレンダーのファーストモデルです。文字板にシーマスター・カレンダーと明記してあり、6時位置にある小窓に、カレンダーを表示するという当時としては新鮮なデザインであります。

1952年に、Cal.351にカレンダー機構を取り付けたCal.353が開発され発売されました。Cal.355は、スワンネックのスクリュー式微細精度調整が出来る高級グレードのムーブメントで1952年~1955年の間に、生産されました。この自動巻きは、ハーフローター方式(自動巻半回転方式)で、当時のジャガールクルト社も採用していた方式です。ムーブメント外周部にバネが2ヶ所に取り付けてあり、ローターがそれに当たって強く反発して回転するような仕掛けになっています。(巻き上げ効率は現行の物より若干劣るのはやむえないと思います。)

振動数は、19800振動、直径28.10mmで、その頃のロレックス社のムーブメントと比較して優るとも劣らない、高精度の出る美しいムーブメントであった事は、弊店の修理履歴の写真を見ていただければ、読者の方も納得されるのでは?と思います。

自動巻機構を取り外した手巻き駆動部分も、写真を見ていただければ解ると思いますが、インターナショナルが採用していた、ベラトン方式に似た蟷螂の2本の腕のような巻き上げ方法で、秒カナ車を、3番車の出車で回すという方式でした。日ノ裏機構も、50年前のものとは思えない程、完璧な美しい造りで、その当時のオメガ社の技術力の高さが彷彿されます。当時のオメガ社の欠陥?と言えばただ一つ、パッキングを4~5年おきに交換しないで長年放置しておきますとパッキングが液状化して溶けだしムーブメントにはみ出して流れ込むという厄介な欠点がありました。

ベンジンで洗浄してもとても取れなくてシンナーでしか洗浄しないと取れないと言うもので、この時計も案の定パッキングが溶けてムーブメントにべっとり付着していました。溶解したパッキングはなかなか取れないもので手間のかかる作業になります。

インターネットの時代になって、地方の弊店にもこの様な、珍しくて希少価値のある時計産業の歴史に残る名機の修理依頼が来る様になったのは、非常に喜ばしい限りで、時計職人として、ありがたく思っている今日この頃であります。いつまで出来るか解りませんが健康でいる限りはこの仕事を続けて行きたいと思っております。